09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

「臈(ろう)たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ」 大江健三郎

2012/11/29
かつてチャイルド・ポルノグラフィ疑惑を招いて消えていった一本の映画企画があった。その仲間と美しき国際派女優が30年を経て再び、私の前に現れた。人生の最後に賭ける「おかしな老人」たちの新たなもくろみとは?ポオの美しい詩篇、枕草子、農民蜂起の伝承が破天荒なドラマを彩る、大江健三郎「後期の仕事」の白眉(「BOOK」データベースより)。

   臈たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ

「水死」があまりにも分からなかったので、「水死」の前提知識となるらしい作品を読んでみた。薄くて読みやすいかと期待。

実際、「水死」の100倍読みやすかった(笑)。誰が何をどうしたか、というのが一応分かる。メインテーマは「水死」と同じかも。四国による百姓一揆を演劇化することで、「国家による強姦」を描き、国家・国粋主義を批判する。

私は女だからか、性的描写への嫌悪感が拭いされない。国家主義を批判するために強姦及び即物的な女性性器の描写が必要な理由が理解できない。

一つ面白かったのが翻訳。

作中で、エドガー・アラン・ポーの「アナベル・リー」の詩と、日夏耿之介の訳が紹介されている。シンプルな原文がここまで変わるか、という訳になっている。

(原文)
IT was many and many a year ago,
In a kingdom by the sea,
That a maiden there lived whom you may know
By the name of ANNABEL LEE;
And this maiden she lived with no other thought
Than to love and be loved by me.

(日夏氏訳)
在りし昔のことなれども
わたの水阿(みさき)の里住の
あさ瀬をとめよそのよび名を
アナベル・リーときこえしか。
をとめひたすらこのわれと
なまめきあひてよねんもなし。

(Wikipedeia掲載訳)
昔々のお話です
海のほとりの王国に
一人の娘が住んでいた
その子の名前はアナベル・リー
いつも心に思うのは
僕への愛と僕の愛

「なまめきあひてよねんもなし」のあたり、本作品にある通り、どこかエロティックなものを感じるが、いざ原文を読むと”Than to love and be loved by me.”なんですよね。王子様と王女様が愛し合いましたとさ、程度の雰囲気しかなかった原文が一気に谷崎の世界へ突入だ。

最後の方はこんな感じ。

(原文)
For the moon never beams, without bringing me dreams
Of the beautiful Annabel Lee;
And the stars never rise, but I feel the bright eyes
Of the beautiful Annabel Lee
And so, all the night-tide, I lie down by the side
Of my darling - my darling, - my life and my bride,
In the sepulchre there by the sea,
In her tomb by the side of the sea

(日夏氏訳)
月照るなべ
臈たしアナベル・リイ夢路に入り、
星ひかるなべ
臈たしアナベル・リイが明眸(めいぼう)俤(もかげ)にたつ
夜のほどろわたつみの水阿(みさき)の土封(つむれ)
うみのみぎはのみはかべや
こひびと我妹(わぎも)いきの緒の
そぎへに居臥す身のすゑかも。

(Wikipedeia掲載訳)
月輝かず、汝が夢は来たらず
かの美しきアナベル・リー。
星出でず、されど見る汝が輝かしき瞳
かの美しきアナベル・リー。
さればこの夜の季節、われかたわらに身を横たう
わが愛する、愛する、わが生命、わが花嫁よ。
あの海のほとりの墓所にて、
海鳴るほとりの霊屋にて。

こちらは、日夏氏の訳も嫌いじゃない。でも、漢語調なのがすごい。原文読むとWikipediaの訳の方が自然な気も。まあ、このへんは好みなのでしょう。

本のテーマから離れますが、翻訳の違いが私は面白かったです。

19:25 日本・小説(新) | コメント(0) | トラックバック(0)
コメント

管理者のみに表示