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三月歌舞伎座「菅原伝授手習鑑」より「車引」「賀の祝」「寺子屋」

2015/03/16
三月大歌舞伎は、通し狂言「菅原伝授手習鑑」。一日で昼の部夜の部続通したいところだが、諸事情で夜の部から見ることに。

「車引」
梅王丸:愛之助/松王丸:染五郎/桜丸:菊之助/杉王丸:萬太郎/藤原時平公:彌十郎

初見。30分ほどの短い演目。三兄弟の梅王丸が荒事を、松王丸が実事を、桜丸が和事で、それぞれの違いが楽しめる。と言いたいところだが、これは後づけの知識。実のところ梅王丸と松王丸のキャラの違いが良く分からなかった。入れ替わっても気づかないかも。実事とは、「誠実な人物が悲劇的な状況の中で苦悩しながらも事件に立ち向かう姿を描く」とのこと。でも「車引」では松王は特に苦悩していなかったみたいだし。

でも、梅王丸は荒事担当らしく、見得をいっぱい見せてくれる。隈取は「筋隈」。元気いっぱいの若者らしい化粧が、愛之助の顔にとても映えていた。足には血管の筋が浮だってて、普通に歩いても動きに躍動感がみなぎる。お相撲さんみたいに肉じゅばんを詰めこんでおり、ぬいぐるみみたいでかわいい。もうちょっと口跡にパワーがあるといいな。でも、「何と聞いたか桜丸。斎世親王、菅丞相。憂目逢わせし時平の大臣、存分言おうじゃあんめえか」という台詞は良かった。
ちょいメモ備忘録20150315-04

桜丸は菊之助。以前映像で見た桜丸は藤十郎さん。いかにも女形の人がやる立役という印象だったが、菊之助の桜丸は結構威勢がよく、「敵の時平公だ、一言いってやらなきゃ!」っていう元気な若者風情。桜丸のお化粧は、目張りの形が貝のむき身に似ている「むきみ隈」だそうで、目張りを大きくするのが特徴らしい。この目のお化粧、クールかつ色気を放つ効果があり、実際、桜丸のキャラもそんな感じ。いつもの菊之助と一味違った印象。

そして染五郎の松王丸。終盤の登場で、手堅くまとめてた。お化粧は「二本隈」で、力強い雰囲気かつ理知的な印象。あ、だから実事なのか。梅王と桜丸の赤の襦袢衣装に対して白の襦袢の松王丸が真ん中にたちコントラストが映える。

時平公の彌十郎さんのお化粧、なんかコミカルであまり悪い人に見えなかった。でも「車引」自体あまり重くない演目みたいだし、これでいいのかな。杉王丸の萬太郎は赤顔。物言いが生意気。手足ののびのびとした動きで若さが強調され、さらに生意気さに拍車をかける。時平の乗っていた車は牛が引いてた。牛って歌舞伎で初めてみたかも。黒牛でした。

コンパクトながら歌舞伎の楽しさが凝縮された演目。ラスト、「あーりゃ、こーりゃ」の化粧声が圧巻。ずっと聞いていたい。梅王丸が飛び六法をしていたみたいだが、3階からはまるで見えない。

こちら、梅王丸、松王丸、桜丸、時平公の隈取のできる過程が見られるサイト。面白い。

「賀の祝」
桜丸:菊之助/松王丸:染五郎/梅王丸:愛之助/春:新悟/八重:梅枝/千代:孝太郎/白太夫:左團次

まず衣装。梅王丸、松王丸、桜丸とその奥方連中の衣装の柄が、それぞれ梅、松、桜をちゃんとあしらっている。こういうのを確認するのが楽しみのはずなのだが、梅だか桜だか見当がつかない見識のなさ。

前半、染五郎の松王丸と愛之助の梅王丸のけんかが楽しい。仲悪いんだけど、けんかは普通の兄弟げんかの範疇で、ほのぼの。米俵まで振り回してどったんばったん。松王丸って「寺子屋」のおもーいイメージが強すぎるんだけど、この場面ではお前小学生だろっていうくらい幼い印象でびっくりした。髪形も違うし。ってこの時点ではまだ病気じゃないから(←寺子屋の鬘は病人用とはじめて知った)。梅王丸もやんちゃ。

ところで、この三兄弟の年齢はいくつなのか。父白太夫が70歳。松王丸の息子小太郎が7歳として、仮に松王丸が平安時代の一般男性の平均結婚年齢である17歳前後で結婚し、小太郎が結婚後すぐ生まれたとしたとしたら、松王丸は当時24歳。とすると、松王丸は白太夫の46歳のときの子供?46歳で三つ子の父?仮に、松王が結婚したのが25歳前後だとしたら、当時32歳。松王丸は白太夫の38歳のときの子供ということに。でも三兄弟とも32歳には見えない。ついでに、夜の部に登場する覚寿。菅丞相の伯母だけど、菅丞相が50歳くらい。伯母ってことはそれよりも年上。60歳くらいとして苅屋姫が15歳。ってことは、苅屋姫は覚寿の55歳くらいのときの子供?まあ、そういうことを超越して楽しむのが歌舞伎なのだね。

梅王丸の奥方は新悟の春。おとなしくてちょっと神経質そうだけど、言うことは言うタイプ。松王丸に梅王丸の悪口を言われてむっとしているところとか、ちょっとかわいい。孝太郎の千代は松王丸の奥方。孝太郎はさすがの身のこなしで、腕のちょっとした動きがさすがの貫禄。夜の部では年齢が上なだけある。

後半の見所は菊之助の桜丸の切腹。桜丸が登場したとたん、前半の誕生日を祝うおめでたい雰囲気ががらっと変わる。菊之助の目がどうしよもなく据わってるんだ。「車引」では元気で向こう気の強い若者だったのに、この段ではきっぱりと自害すると決め、責任を果たす覚悟でいる。
ちょいメモ備忘録20150315-03

切腹する前の梅枝の八重とのやりとり。八重が何度も何度も自害をやめてと梅王丸に訴える。桜丸は決して八重を振り切ることなく、何度も何度も首をふり、もう死ぬ道しか残されていないことを伝える。桜丸が八重を大切に思い、八重も桜丸を心から愛しく思っていることが伝わる。梅枝、うまいです。特に泣く場面。他の女形さんだとああここは泣く型を披露しているのだな、ということがあからさまに分かるのだが、梅枝の場合、現代劇でも通用するのではないかというくらい自然。それでいて義太夫との違和感もない。本当に楽しみな女形さん。

左團次さんの白太夫、桜の枝が折れているのと見たときから、桜丸の運命を悟り、その後息子桜丸を失う辛さが舞台中に溢れ出ていて悲しい。

後半の若手二人の切腹にいたるやりとりがとても印象に残る「賀の祝い」でした。

「寺子屋」
松王丸:染五郎/武部源蔵:松緑/戸浪:壱太郎/涎くり与太郎:廣太郎/菅秀才:左近/下男三助:錦吾/春藤玄蕃:亀鶴/園生の前:高麗蔵/千代:孝太郎

松緑の武部源蔵。松緑の台詞回しが源蔵に合わない気がして、正直期待していなかった。だけど、一本調子の口跡は控えめで聞き取りやすい。源蔵戻りから一貫して、菅丞相を守るという重い責務を背負った者のの辛さが滲み出ていた。松緑自身、よくこれだけの重さに耐えられると思うほど。
ちょいメモ備忘録20150315-02

そして染五郎の松王丸、ポスターの鬘がどうにも似合ってなくて、こちらもあまり期待していなかった。ていうか、この鬘、染五郎の顔には大きすぎないか。役者さんの顔に合わせて鬘を調整しているはずが、まるで子供歌舞伎。(ちなみにこの鬘、「五十日鬘」というそう。五十日病気で髪の毛のばしっぱなしという意味?)。

しかし鬘で判断しちゃいけないね。前半の首実検でも、後半の正体を現した後も、全編を通して松王丸が我が子小太郎を身代わりに差し出す葛藤に苦しんでいるのが良く分かる。そして弟桜丸を失った悲しさも。通し狂言だからこそ。松王丸にふさわしい華もある立派な松王丸。
ちょいメモ備忘録20150315-01

染五郎も松緑、二人とも重ーい空気を醸し出していて、これ以上舞台を見るのが辛いほど。このずっしりした重さを観客が必死に受け止める。これが「寺子屋」なのか。寺子屋を見るのは5回目位だと思うが、前回あたりから、ようやくこのお芝居の面白さが分かってきた気がする。

今回、初めて(?)寺入りが見られた。千代が息子小太郎を寺入りさせ、振り切るように別れたものの、母親としての未練を断ちがたく帰路につけずにウロウロ。寺子屋に預けるということは、母親が息子を失うことを意味するわけで、ある意味千代は松王丸よりも辛い状況にある。この場面があってこそ、寺子屋に再訪して息子はお役に立ったかを確認する場面につながるのだね。孝太郎の千代、責務を全うし、松王丸を立派に支える女房。「寺子屋」でも貫禄あり。

壱太郎の戸浪、そつなく源蔵の女房をこなしていたと思う。松王丸、源蔵、千代ほどの重さはまだなかったけど、健気で愛しい女房らしさは出ていた。廣太郎の涎くり、ちょっと軽さにかけるかなあ。亀鶴の春藤玄蕃、こんなに軽やかで強い声が出せる人なんだ。赤顔のイメージはなかったのに。

ちょいメモ備忘録20150315-05

染五郎と松緑、この二人の芝居が好印象だった寺子屋でした。歌舞伎の未来は明るい。

00:34 鑑賞記録 | コメント(0) | トラックバック(0)
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